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2020.07.01

オラファー・エリアソン 知覚する喜び

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こんにちは!
FMCでアシスタントディレクター・デザイナーをしている遠藤です。
暑い日が増えてきましたね。夏が来ると本当に嬉しいです。
今日は、展覧会の感想を書こうと思います。

先日、COVID-19に伴う「緊急事態宣言」が取り下げられて以降初めて美術館に行きました。
東京都現代美術館で開催中の、「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展です。

オラファー・エリアソンは、コペンハーゲン生まれのアーティストです。
光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけています。

2003年にロンドンのテート・モダンで展示された「ウェザー・プロジェクト The Weather Project」は知っている人も多いのでしょうか。ウェザー・プロジェクトは、人口的な太陽を室内に作り出した大きなインスタレーションです。写真を見るたびに、体験したいという気持ちにさせられる作品です。

毎日、誰しもが太陽の下で生活しているにも関わらず、太陽について考える時間が私たちの一週間の中に果たしてどれくらいあるでしょうか。
太陽は私たちの忙しない生活の中では、明るくしたり暗くしたり、暑くしたり寒くしたりする、ただの機能のように思われることがしばしばありますが、実際にはそうではないはずです。この作品を写真越しにでも眺める時、私たちは太陽もしくは太陽と自分の関係について考えます。人為的に造り出されたににせものの太陽を目の当たりにした時に、「では実際の太陽とは一体なんなのか?」と考えます。

こうした思考の契機を与えてくれるのが、エリアソンの作品の特徴と言えると思います。もちろん、そうした鮮明な言葉を持って頭の中に浮かんでくるものに限らず、作品をただ知覚することによって、言葉とは関係のない部分で感じるものも多くあると思います。

日本での個展は10年ぶりということで、多くの人が美術館に訪れていました。
展示室に入る人数を制限するため、館内に列ができており、少し並んでからの入場となりました。

エリアソンはこの展覧会のためにwebサイト(英語のみ)も作成しています。
横にスクロールしていく雑誌みたいな作りになっていて可愛いです。

こちらのページでは、本展示会の一番最初に展示されている「クリティカルゾーンの記憶 (ドイツ-ポーランド-ロシア- 中国-日本)no. 1-12 Memories from the critical zone (Germany–Poland–Russia–China– Japan, nos. 1–12) 」(2020)において、この作品が移動してきた”旅路”が紹介されています。作品自体もいくつか掲載されているので、見てみてください。

今回の個展に関してエリアソンは「環境問題にフォーカスをあてた初めての展覧会になる。」と言っており、開催に即しては”いかに環境に配慮した展覧会にするか”が1つのトピックであったようです。そうした観点から、今回展示された作品たちは、ベルリンから東京まで飛行機を使わない手段で輸送されました。この作品は、そうした他の作品たちとともに輸送されてくる中で制作されたものです。木枠の中にセットされた紙とドローイングマシンによって、輸送されてくる際に受ける振動を受けて自動記述された線が作品になっています。作品は最初にトラックでベルリンからハンブルクへ、次に列車でポーランドのマラシェビツェにある貨物港の駅、ロシアのザバイカルスク、そして中国の太倉市の港に移動し、そこで日本への船に積み込まれたそうです。

複雑で、ときに激しさを持つ生々しい線を眺めていると、移動という行為が持つ本来の大変さや、作品が経てきた距離の大きさが感じられます。飛行機や電車に乗る時、それはただやり過ごさなければならない「暇な時間」のように思える事がありますが、ある地点からある地点へ移動することは、実際思うよりずっと大きな意味を持つことなのかもしれません。

今回の展示では写真撮影が可能だったので、私が撮った写真をいくつか載せてみます。

 


「あなたの移ろう氷河の形態学(過去)Your passing glacial morphology (past)」(2019)
「メタンの問題 Methane matter」(2019)
中央
「あなたの移ろう氷河の形態学(未来)Your passing glacial morphology (future)」(2019)

グリーンランドの氷河を使って作られた作品です。紙の上に置かれた氷河が溶け出して一緒に置かれた絵の具と混ざることによって色が染みになって現れています。自然は人間の手によって操作や管理できるものではない、というシンプルなことを思い出しました。

 


「太陽の中心への探査 The exploration of the center of the sun」(2017)

建物屋上のソーラーパネルから引いた電気で中心部分が発光しています。特定の光を反射したり、透過させたりするガラスを通して、部屋が色とりどりの光に照らされています。多面体はゆっくりと回転しています。写真がうまく撮れていないので伝わらないのが残念ですが、実際はもっとキラキラしていて、ずっと眺めていられるくらい綺麗です。光源は一つでも、最終的に床や壁に現れる光の色は様々になっています。

 


「人間を超えたレゾネーター Beyond-human resonator」(2019)

光源を一つのガラスのレンズを通して分光させただけでこのカラフルな円たちができているそうですが、一体なぜそうなっているのかはどれだけ作品を凝視しても理解できません。とてもシンプルなのにとても不思議な作品でした。実際に作品の周りを歩き回って見るのが楽しいと思います。
最終的には「よくわからない・・・」と思いますが、そうなるまでの体験が素敵です。独特の感慨があったように思います。装置があまりにもシンプルなのもさることながら、この円の意図を全く感じない感じが不思議です。灯台の光の仕組みが応用されているそうです。

 

  
「力と思いやりの領分(マインドマップ)Spheres of power and care (mind map)」no.2~14のどれか

ベルリンにあるエリアソンのスタジオは現在、技術者、建築家、研究者、美術史家、料理人等、100名を超えるメンバーで構成されているそうで、スタジオでは日々様々な実験とリサーチが行われています。今回の展示でも、そうした実験の中で生まれたいくつもの作品が展示されていました。野菜くずの顔料で書かれた水彩画や、作品の制作過程で出るガラスを利用した作品などがずらりと並んでいるところを見ていると、スタジオから次々と生み出される多様なアイデアが感じられて、とてもポジティヴな気持ちになりました。

そんなチームのメンバーに自分のアイデアを共有するために、エリアソンはこうしたドローイングを描くそうです。最初に載せた写真の作品と同じで、氷河を溶かして絵の具と混ぜる方法で描かれた水彩画がベースになっています。描いてある文字は「Push」や「Now」などの簡単な単語ですが、見ただけですごく力強くシンプルな思いが伝わってくる感じがして好きです。

ちなみに、スタジオのメンバーは毎日全員で同じテーブルを囲んで昼食を過ごしているそうで、スタジオのキッチンで生み出されるベジタリアン料理にフォーカスを当てた本「スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン(Studio Olafur Eliasson The Kitchen)」が出版されています。家庭向けのレシピが100も掲載されているらしく、俄然気になります。

 


「溶ける氷河のシリーズ 1999/2019 The glacier melt series 1999/2019」(2019)

アイスランドの氷河の写真を、全く同じ場所から1999年に撮った写真と2019年に撮った写真がいくつも並べてあります。見てみると、氷が大量に溶けてなくなっているのが一目瞭然です。
この作品はこちらのサイトでも見る事ができるようです。

 

 

いくつかの作品を感想と共に紹介しましたが、展示は9/27まで開催されているようなので、気になった方はぜひ足を運んでみてください。

私たちは日々大小様々な社会のシステムの中で生きていますが、それと同時に地球の上で生きています。こうした事実に対して人々はとりわけ鈍感になっているように思えます。今回の展示がそうした事実を改めて確認する機会になったことはいうまでもありません。それに加えて、日々の繰り返しの中で見えなくなっていくもの、つまり「昨日と今日、そして明日は全て同じようなもの」と感じることの貧しさから、最も遠いところへ連れ出してくれるアートの持つ力を再確認する機会になりました。美術館に行った時にいつも思うことです。

家にいる時間がとても長かった期間を経て、初の展示がエリアソンだったのでなおさら、実際に体験することの尊さが深く感じられたように思います。やはり液晶で眺めているだけではわからないことばかりだな、と思いました。うっかり何も考えずに過ごしているとついインターネットばかり見てしまうことが増えてしまいがちなので、気をつけなければと思います。

とはいえ、画面の上でも見ていて楽しいのには違いありません!Studio Olafur Eliassonのwebサイトは、見てみるとこれまでの作品の写真がたくさん載っています。予測不可能な動きをするサイトの作りも面白くて素敵です。氷が突然出てきて可愛いです。今回の展示のためにサイトを制作したり、「The glacier melt series 1999/2019」にも作品のためのサイトが用意されていたりと、活動の中でwebが効果的に活用されているようです。
「私の関心事は、地球の気候変動とつながっている、気候変動の一部であるとより多くの人が実感を持てるのかということです。」とエリアソンは言っています。

 

 

 

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